「なんでィ、こんな天気がいい日にシケた面しやがって」

のくせに、と言った彼の表情は逆光でみえない。
だけどそう言う隊長の声だって、充分しけてた。





現場から少し離れた所に腰を下ろして、ぼんやりと空を見上げる。
凭れた民家の壁は、隊服の背中にも染みこんだ鉄の水分できっと湿っているのだろう。
攘夷志士とのドンパチなんてざらだ。だからといって刀が相手に埋まる瞬間の感触に慣れることはできない。
返り血を吸って重くなった漆黒の隊服は、その色を変えることはない。
その重さのぶんだけ、私の刀は人を薙いだのだ。

「だって隊長、血って雨に濡れたって取れないんですよ。太陽の光でならきれいに浄化される気しません?」
「お前は吸血鬼かィ」
「あー、灰になりたーい」
「俺ァまだ死にたくねェ、せめて灰にするなら返り血だけにしとけ」

それでもいいですね、と呟くと、シャレにならねェがな、と笑いが降ってきた。

「そんなことになったら、俺達全員灰に押しつぶされちまうだろィ。斬られるならともかく、圧死はお断りだ」
「自分で言っておいて………まあ、そうかもしれませんけど」
でも、と続ける。
「血生臭いよりは、いいと思うんですよ私」
「そりゃあお前らしいな。だけど、」


それを考えるのはまだ早いな。死ぬ時は道連れにしてやるって言ったはずだぜィ。


軽く笑いを含んで囁かれた戯れ事は、そろそろ隊長の口癖になりつつある。
ああ、それは残酷で、冷酷で、だけどなんて甘美な響きなんだろう。
本人に言ったら絶対からかわれそうだから言えないけど、隊長のいない世界に、私はいる気はないんだ。

「道連れって隊長、何言ったって、結局私隊長を庇って死にたいんですがね」
「お前に庇われたら終わりでィ」
は、と笑った隊長は、その綺麗な顔に物騒な笑みを浮かべた。
隣に座り込んでこっちを覗き込まれると、距離がぐんと近くなる。


「楽しみにしてろィ、お前の死に様は腹上死決定でさァ」


…………ん?

え、今何言ったこの人。今、確実に耳が、大脳が、単語の理解を拒否した。
私さっき、結構良いこと考えてた気がするんだけど。全部ぶちこわしやがったこの男。

「……は? ふくじょ……何の上? 誰の上で?」
「俺」
「副長ー。沖田隊長がひっどいセクハラしてくるんですけどー」

遠い目をして助けを呼べば、俺の前で他の男の名前出すなんていい度胸だねィと無理矢理がっちり後頭部を掴まれて。
隊長の顔が近づいて、焦点があわなくなって、不必要なくらい深く口付けられた。

「っ、ちょ、……んぅ、ッ」

口内に入り込んだ舌から逃げても、抗う前に捕まえられてしまう。まてまてまて、此処をどこだと思っているんだ。
呼吸もままならないままに翻弄されて、身体の力が抜けていく。
ようやく離された時には息も上がっていて、座り込んでいるというより、へたり込んでしまった状態だった。
「はっ、……ちょ、っと、総悟さん! 何するんですかここ往来なんですけど!」
素に戻ってしまったと気づいたのは叫んだ後。しまった、隊服を着ているときは、隊長は隊長なのに。
困惑が顔に出たのか、それを見逃さなかった隊長は可笑しそうに笑った。
「律儀だねィ、お前は」
「………」
その笑顔は彼の、所謂「素」のものであったので、そしてきっとそれを知っているのは、私だけであると自負しているので。
(……もう、いいや)
未だに感じる錆くさい重さも、全部抱えて走ってやる。
いつか太陽が浄化してくれる、なんて神話モノなんだろうけれど、それでも、止まるわけにはいかないのだ。



シンデレラになりたくて

(気づいたときには、灰だらけで)
20070807