ボンゴレでの仕事に大分慣れた頃、わたし自身も忘れていた構成員が帰還した。 ……忘れてたっていうのは、申し訳ないけど。 「十代目、ただいま戻りました」 執務室の扉を優雅に開けて、優雅な足取りで絨毯を踏んだ青年の足元を、乾いた音と共に弾丸が掠めた。 「ひっ!」 「おかえり、隼人」 今まで普通に会話していたのに、ノックの音が響いた時から、なんていうか、足元が寒くなってたんだけど。 ハラハラしながら見てたら、扉が開いた瞬間に綱吉の傍らに立っていた家庭教師が発砲した。 何のモーションも無く一瞬で照準を合わせて引き金を引くのは、きっとリボーン君にしかできないことだと思う。 わたし、慣れてきたわよね、この非現実的な現実に。人間の適応能力ってすごいわ。 そんなことを悠長に考えている間にも、三発ほど弾は消費されたようだった。 綱吉は綱吉で、机の上で両手を組んだまま微笑んでいる。微笑んでいるが、目は笑っていない。 よほど腹に据えかねているということだろうか。 まあ、アレよね。ちょっと愛が行き過ぎた感があるっていうのかしら。良く言えばだけど。 これは恭弥先輩の方も覚悟しておいた方がいいんじゃないだろうか。 「あ、あの、リボーンさん」 「おう、どうした獄寺」 すっかり怯えて声を震わせる獄寺君に、手早くシリンダーに新しい銃弾を装填しながらのいっそ爽やかな死神の声。 それに追い討ちをかけるように、綱吉も笑みを深くした。 「お仕事ご苦労さま。言いたいことは沢山あるんだけど、とりあえず君はデータ管理禁止ね」 「え、ですが他に誰が…」 「この子」 え。突然引き合いに出さないでよ! 笑顔のままの綱吉に押しやるようにして前に出されて、視線を上げるといぶかしむ様な獄寺君の目とかちあった。 む、昔からこの人苦手なのよ……! 意味もなく睨んでくるし! 「誰ですか、この女」 「覚えてない? 無理もないかな、俺も一瞬分からなかったし――さんだよ。」 近所に住んでたんだけど君との接点は少なかったんだ、続けた綱吉の言葉に、獄寺君は考えるように首を傾げた。 それから、と口の中で呟いて、まじまじとわたしの顔を見つめる。うう、美形め! 何でここの幹部は美形ばっかりなんだろう。中身が伴ってないのがほとんどだけど。 苦笑したところで腕を引かれて、え、と思う間もなく綱吉の背中に隠された。 「ちょ、綱吉? どうしたの?」 「隼人、思い出した?」 「あ、はい。隣のクラスだった、ですよね? 何度か会話したこともあったかと」 「そう。じゃああんまり見ない。減るから」 減らないわよ。 何言ってるの、なんて思っても、頬に血が昇るのは止めようがない。ああもう、これだから天然タラシは嫌なんだ。 嘆息して、視界を覆う綱吉の広い背中を見上げる。 それを見とがめられたのか、堪えかねたような笑いが拳銃を手に提げたままの家庭教師から小さく漏れた。 そしてその手紙が届いたのは、右腕の帰還から数日後。 「……同窓会?」 「そう」 頷いた綱吉の手にあるのは、一通の往復ハガキだ。どうやってこんなところまで届いたんだろう。 「母さんから父さんに送られてきて、それからここにね」 わたしの疑問が顔に出たのか、綱吉はそう説明した。ああ、それなら納得できる。 家光さんに頼めば信用もおけるし。手紙はおそらく門外顧問チームのバジル君? っていう子が届けに来たんだろう。 まだ会ったことないけど、名前は何度か聞いたことがある。 「のぶんもあるんだ。はい」 「え……? あ、ありがとう」 クラスが違ったのにどうしてわたしにも来るのか。 訝しく思いつつ文面を追えば、なんと学年全体のものらしい。そんな大人数どうするんだろう。 「並盛グランドホテルでやるらしいね。あそこってそんなに広かったのか?」 「うーん、大広間は披露宴とか出来るくらい広いらしいわよ。友達の従兄弟があそこでやってたもの」 へえ、と返して、綱吉は葉書をひらひらと揺らした。 「、行きたい?」 「え……」 同窓会。 行ってみたい気もするけど、でも、今のわたしは立場が立場だ。 それはここにいる守護者と綱吉、全員に言えること。 「わたし一人、行くわけにはいかないわ」 「俺も行くのに?」 え。 「大丈夫なの!?」 思わず声を荒げてしまって、自分で息をのむ。だってびっくりしたんだもの。 綱吉は全部分かっているかのように微笑んで頷いた。 「うん。実はね、その日は元々日本で仕事があったんだ。同窓会は夜からだし」 リボーンからもゴーサインが出たしね。そこだけ小さく囁いて、悪戯っぽく笑った。 そこが一番心配だったことも見通されていたらしい。 「実はその仕事にも同行してほしかったんだよね。どう、行かない?」 もう一度聞かれて、頷かないはずがない。こくこくと首を縦に振ると、やわらかく微笑まれた。 「じゃあ決定。仕事の後だし、ホテルにでも寄って着替えて、可愛い格好して行こうね」 「はっ!?」 だ、だからそういうことを素で言うなって言ってるのに……!! 顔に血が上るのを根性で留めつつ考えておくわ、と流す。 事前に仕事があるんなら、獄寺君や武も一緒に来るはずだ。なんだか変な感じ。 あの頃、確かに綱吉と幼馴染ではあったけれど、一緒に行動したりっていうことはなかった。特に中学に入ってから。 一緒に同窓会に顔なんて出したら、どんな反応をされるんだろう。 綱吉がこんなにかっこよくなってるなんて知ったら、あの頃綱吉をバカにしてた女の子たちだってきっと黙っていない。 そこまで考え付いて、さあっと体の熱が引いていくのがわかった。 やだ、今わたしすごく嫌な女。 「、どうしたの?」 「え、ううん。何でもない。……綱吉も獄寺君も武も、きっとモテモテになっちゃうね!」 黙っておけばいいのに、どうしてわたしは墓穴を掘るのか。 自分で言っておいて落ち込んでいると、綱吉はそうだねえ、と首を傾げた。 「俺はそんなことないと思うんだけどね。隼人たちはもともとそうだったし」 「だって綱吉、なんか色気が増してるもの」 「なにそれ」 わたしの言葉に噴き出すように笑って、綱吉は可笑しげに細められた目をこちらに向けた。 「それだったらだってそうだろ。すごくきれいになったって、俺前から言ってるじゃないか」 ホントに気が気じゃないよ、と真顔で言われて、どうして赤面せずにいられるのか。 「、顔赤い」 「……誰のせいよ!」 クスクスと余裕たっぷりに笑う幼馴染は、きっと誰よりもかっこいいはずなのだ。 |